介護支援ブログ

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介護事業所キャリアパス制度導入事例8 社会福祉法人端山園 地域密着型総合ケアセンターきたおおじ

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キャリアパスの構築はチームリーダー層の役割と求められる姿の明確化から

平成21年度にキャリアパス制度は、介護職員処遇改善交付金の要件となりました。そのことを受けて、キャリアパス制度を構築する必要性が生じたわけですが、同法人施設長、マネージャーは以前からキャリアパス制度の必要性と有効性を認識していました。いざ、キャリアパス制度を構築しようとしたとき、まず手掛けたのが、チームリーダーたちの役割と求められる能力でした。

高齢者介護はチームケア、チームのリーダーの力量が大きくケアに影響します。そのチームリーダーの役割を明文化し、リーダーたちにどのような能力を具体的に求めるのか、議論を深めることから、同施設のキャリアパスの構築が始まりました。

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 [事業所プロフィール]

名称:社会福祉法人端山園 地域密着型総合ケアセンターきたおおじ

設立:平成24年8月(法人設立 昭和51年3月)

所在地:京都市北区紫野大徳寺町49-3

事業:地域密着型特別養護老人ホーム、短期入所、小規模多機能型居宅介護、高齢者住宅、地域交流スペース

従業員数:58名(正規職員24名、非正規職員34名)

 

 

プロジェクトチームで拡散と収束を繰り返して構築したキャリアパス制度

キャリアパス制度の構築は、施設長とマネージャーによるプロジェクト形式で始まりました。メンバー全てが部下にチームリーダー層を抱え、日頃指示、指導している階層です。まずは、リーダー層の役割を明確にするために、付箋に思い思いに役割を明文化していきました。そして、個々の意見をプロジェクトの中で共有化しさらに発展させて、という具合に意見を拡散させていきました。

その後、それぞれの意見をある程度分類し、エクセルの表に記入して一度収束させましたが、そのデータを回覧すると、さらに意見が出され、最終的には膨大な量の役割や能力が抽出されました。しかしながら、すべての意見をキャリアパス表に載せるわけにもいかないため、それらの意見を「職務内容」「求められる能力」「任用の要件(任用に必要な修了研修・要件・基準経験年数)」の3つに整理していきました。こうして出来上がったのが、「きたおおじキャリアパスマトリックス」(図表1)です。

[図表1:きたおおじキャリアパスマトリックス(抜粋)]

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准監督職のリーダーに求められる職務内容を8つにまとめ、さらに求められる能力について「専門性」「組織性・社会調整能力」「人材育成」「経営管理」の4つの分野に区分して明確にしていきました。そして、リーダー階層の定義が明文化されたところで、サブリーダー、一般職、さらにはマネージャー、サブマネージャーの階層を定義してキャリアパスマトリックスを完成させました。

 

キャリアパス制度構築のプロセスから生まれたハンドブックとその活用

リーダーに求められる能力のひとつとして「根拠に基づいた介護が説明でき、提供できる」という項目がありますが、これには、「リーダー層の役割」として施設長とマネージャーから出された膨大な量の意見の要素が詰まっています。その要素を整理し、キャリアパスマトリックスとリンクし一覧表にしたものが「キャリアパスハンドブック」(図表2、3)です。

[図表2:キャリアパスマトリックスとハンドブックの構造]

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[図表3:キャリアパスハンドブック(リーダー編)]

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例えば、「専門性」の分野だけでも、4項目あり、項目「介護保険制度の理解・把握」については、求められる能力として「基本的な法・制度について理解できている」とあり、例示として「例えば、所属している部署の~」という具合に具体的に「何が」「どのレベル」まで求められているのかが明確になっています。

このハンドブックは右端に自己評価欄がありますが(図表3)、上司の評価欄は設けられていません。これは、上司から評価されるために使用するものではなく、職員本人が、自らの能力、職務行動を振り返り、能力開発に使用してもらいたいという思いによるものです。このハンドブックは、リーダー研修や会議の際に持参して自分たちに求められる姿を意識化させるために使用しており、また、1年に1回の面談の前に自己評価をし、面談時のコミュニケーションツールとしても活用しています。

 

キャリアパスに対応する給与体系

キャリアパス制度の構築に合わせて、給与体系も見直されています。元々、公務員に似た形式であったのを、キャリアパスマトリックスに対応できるように図表4に示される給与区分ごとに、俸給表を作成しました。

[図表4:キャリアパスと給与体系]

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新規採用者は初級に格付けられ、一般職の給与区分により基本給が決定します。そのあと、年数(基本は1年)を経て中級の役割を担うようになると、給与区分が総合職Aの区分に上がり、介護福祉士の資格を取得すれば、専門職の中で処遇されていきます。そこから中級職員として熟練していくか、上級職員(サブリーダー)になると、総合職Bにて処遇されます。ここまでは非役職者として、勤続し自立して自らの役割を果たすことで給与区分が上がっていきます。その後、リーダー階層以上になると、役職に対応した給与区分となり、役割に応じた基本給の設定と昇給が可能になります。

 

キャリアパスに対応する研修プランと法人間連携

職員のキャリアアップを支援するため、キャリアパスマトリックスを基本的な考え方として、階層別の年間研修計画(図表5)を組んでいます。研修の時間そのものが研修ポイントとして設定されているため、将来的に階層によって求められるポイントを明確にして、昇格要件にする予定です。

[図表5:年間研修計画]

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ただ、同施設は職員数が50名程度であり、リーダー階層も数名しかいません。そのため、サービス理念を同じくする法人・事業所が連携して、同施設が主催する研修に他事業所の職員が参加する形で行っています。

この仕組みは、「リガーレ暮らしの架け橋グループ」と呼ばれ、質の向上と研修事業、情報交換グループを構成している法人が共同して研修を企画し、階層別・課題別の研修を行う研修事業と、グループに所属するスーバーバイザーが各施設を回り、施設内の介護実践や会議の運営状況等をオブザーブ及び介入をして、アドバイスする事業、さらには、グループを構成する経営者が集まり、経営面での勉強会の機会を持つことにより次期経営者を育成する事業など、一つの法人ではできないことを協働して実践しています。

 

 

本事例の学びどころ

  • チームリーダー層から構築したキャリアパス

キャリアパス制度の構築にあたり、「リーダー」から考えていったというのは、非常にユニークな取り組みであると思います。多くの場合は、新入職員の階層から順に上がっていくイメージを持ちながら構築することが多いのですが、そうすると積み上げ方式で考えていくため、上位にいけばいくほど大きな役割、責任と権限を付与しがちになります。そうしないと整合性がとれなくなっていくからです。しかし、出来上がったものを、見てみると実際のリーダー層がしている仕事とは大きくかけ離れた内容となり、結局は紙面上だけのキャリアパス制度(使えないキャリアパス制度)となってしまうことがあります。

 

  • 「キャリアパスハンドブック」による具体的な要素の明文化

リーダー層の役割や求められる能力を明文化していく過程で生まれた具体的な能力をひとまとめに文章にしてしまうのではなく、さらにそこを掘り下げて、キャリアパスハンドブックとして詳しく説明しているところは、非常に実践的なものとなっています。

 

ご担当者から一言

リーダー層については、ハンドブックが出来上がり、リーダー研修の内容も相応に定着をしてきました。そして実施している中で見えてきた問題点が2つあります。一つは、リーダーのさらに上位者、つまり管理職層の育成も必要であるということです。研修やグループワーク、実習等を通してリーダーを育成しても、その上位者である管理者がリーダーの優れた行動を賞賛せず、促進もしていなければ、リーダーの学びはそのうちフェイドアウトしてしまい、組織は良くなりません。つまり、キャリアパスマトリックスのマネージャーやサブマネージャー層の育成です。

もう一つは、一般職員用のハンドブックの作成です。最終案のところまで作成はしてあるのですが、これを今後法人としてどのように権威付けをして、職員に浸透させ、キャリアパスマトリックスと並行して運用する方法を検討していかなくてはなりません。今、働いている職員のやる気を維持して、定着していける仕組みをこれからも検討していきます。

 

 

施設長:杉原優子様(写真左)/ マネージャー:村田麻起子様

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[参考:静岡県キャリアパス制度導入ガイド]

 

kaigo-shienn.hatenablog.com

 

キャリアパス要件について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。

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