介護支援ブログ

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介護事業所キャリアパス制度導入事例2 社会福祉法人ふじみ野福祉会

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「教えること」と「評価すること」を一致させる仕組みを構築

社会福祉法人ふじみ野福祉会は、事業開始が平成15年、今年で12年目の法人です。人事管理制度は開設当初から構築されていました。平成24年に理事長が交替し、新しい組織体制をつくる一環として、職員がもっと安心して働けるための人事管理制度構築に向けた改革プロジェクト「業務評価制度改正に向けての検討委員会」を理事会、評議員会承認のもと開始しました。このプロジェクトでは経営幹部や課長クラスが中心となり、現場の意見も十分に取り入れながら、同法人に必要な制度設計や職務記述書等の作成の情報整理が行われました。

 

 

 

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【事業所プロフィール】

  • 名称:社会福祉法人ふじみ野福祉会
  • 設立:平成13年12月
  • 所在地:埼玉県富士見市大字南畑新田16-1
  • 事業:特別養護老人ホーム、ショートステイ、通所介護、訪問介護、居宅介護支援、地域包括支援センター、地域密着型特別養護老人ホーム、小規模多機能型居宅介護
  • 従業員数:133名(正規職員62名、パート71名)

 

業務評価制度改正に向けての検討委員会

 本改革プロジェクトを開始した頃も、職員には成長意欲がありましたが、先輩によって教える視点が異なったり、先を見通した育成が難しい面もあったことから、職場では「どのような働きが望まれているのか」を明確に示すことが求められていました。職務基準に沿って指導できれば、具体的で分かりやすく、基準となる項目を上司と部下で共有した上で、「あなたは、こういう視点で行動したら、もっと良いサービスが提供できるのではないか?」という、職員育成としても活用することができます。

 そこで、改革のポイントを「指導・育成」と「評価」に置きました。プロジェクトのメンバーは7名、課長クラスの責任者5名と理事、評議員からもメンバーを加え、合計7名、1年間という期間限定で議論をしました。「職務記述書」等の細かい資料の作成では、部署毎に代表者を出してもらい、作業をしました。

 「職務記述書」に関しては、以前から階層別に関する記述はありましたが、内容が抽象的だったので、具体的な記述を落とし込みました。例えば「利用者の状態に合わせて、介護業務が安定的にできる」という記述は、どういうことが安定的なのかを明らかにするために、入浴介助の項目は、「入浴介助マニュアルに沿って確実にできている」と変更しました。もちろん、これが「安定的」の全てを表している訳ではありませんが、職員は、「マニュアルに沿う」という具体的な行動を意識することができますし、指導する側も、部下は「マニュアルを意識して仕事をしているだろうか」というように、評価や指導の視点が定まります。具体的な記述にする作業は、どこに着目するかを考えなければなりませんが、これは、各部門から職員を集め、原案を作成してもらうことで、可能な限り実際の仕事でポイントにしていることを言葉にしていきました。

 

組織の階層

 ふじみ野福祉会における現在の組織は、初任⇒中堅⇒副主任⇒主任⇒課長⇒施設長となっています。リーダーには早ければ3年で昇格もあります。現在の主任は開設時からの職員が担っています。早くに役職に就いた職員が多いことを考慮して、階層は図表1のように、主任から課長までの職位に対してS−4からM−4が並行するように設定されています。現在は、主任(S−4)の次は課長(M−1)に移り、S−5以上、M−2以上は不在という運用になっています。

[図表1:職階級・職位呼称]

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人事管理の骨格となる職務記述書と行動基準書

 職務記述書は、職種別、等級別に記述された職務基準がまとめられたものです(図表2)。当然ですが、等級が上がるほど内容は高度になっています。職種は、介護職員、看護職員、生活相談員、機能訓練指導員、介護支援専門員、訪問看護員、サービス提供責任者、包括職員、ドライバー、栄養士、調理員、事務員、洗濯・清掃員の職種で作られています。

[図表2:職務記述書]

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 行動基準書は課長職とそれ以外の職位で分けて作られています(図表3)。これは、職種によらず共通する行動基準を記したもので、「目標・成果」「取組姿勢」「技術」等の項目が8つ程度立てられています。

[図表3:行動基準書(抜粋)]

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 職務記述書は、職種に望まれる働き方(専門性)を示し、行動基準書は、職種によらず共通する、法人職員としての働き方(組織性)を示しています。この2つを組み合わせることにより、働き方の基準を、より個別に示すことができます。

 

人事考課制度のしくみ

 人事考課制度では、主任と課長が1次考課者を、施設長が2次考課者を担い、パート職員を含めて全員を評価します。人事考課制度の流れは次のとおりです。

 

①目標・成果シートの作成(4月)

 各職員は、目標成果シート(図表4)を4月に作成します。自分の目標について「何を」「どのように、どの程度、いつまでに」という視点で記述します。「職務内容について」の1段目は前年度のフィードバックを参考にしながら、2段目は職務記述書等から1つを選択して書きます。職務記述書等の中から選択することで、目標の共有がしやすくなりました。

[図表4:目標・成果シート]

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 3段目は事業計画書等を見て、特に部門の目標を自分なりの表現に落とし込んで記入します。平成26年度事業計画の中では、部門ごとに、「総合目標」が決められ、さらに細分化された「重点目標及び課題」が設定されています。どの重点目標を選択してもよいのですが、例えば、「日常生活の健康管理」という重点目標を選んだ場合、「情報共有に努めながら実施する」等の自分なりの視点を入れて記入します。

 さらに能力開発・自己啓発目標を記します。

②目標設定面接(4月)

 職員一人ひとりに対して、課長と施設長が同席して30分程度の面接を行い、設定する目標についてすり合わせを行います。目標設定についてアドバイスし、本人が考えた目標を変更する場合は、本人の納得を得ながら行います。

③進捗の管理(10月)

 10月1日時点での取組状況の自己分析を、シートに記述します。

④評価(3月)

 まず本人が、1年間の成果と反省をシートに記述して、自己評価をします。1次考課者は評価をつけてから、30分程度の面接を行います。その面接を踏まえて、2次考課者が評価を行います。最終的に理事長の承認により、評価が決定します。

⑤年度末のフィードバック

 年度末には、職員一人ずつに対して「自己評価」「総合考課(1次)」「総合考課(2次)」及び1次・2次考課者からのコメントが書かれたシートを渡して面接をします。

 

職務記述書と連動した人材育成

 基本的には、リーダーが新しい職員の指導を担います。仕事内容の説明は現場の先輩がOJTを通して行いますが、職務記述書に書かれている内容が実践できるようになることを目指すことを、教える側も教わる側も共有して進めます。

 また、リーダー研修を3ヶ月に1回行なっており、目標設定の面接の技法等、人事管理制度の運用で実践できるテーマを多く設定しています。職務記述書は「教える」「評価する」といったリーダーが活用するためのものでもありますので、最近の研修では、職務記述書でどう評価したのか、自己評価と差が出た時に、どう面接するのか等、ロールプレイングも入れながら学んでいます。

 

今後の制度運用への取り組み

 これまでの制度の運用で、職員が評価されることに慣れてきた面があります。考課者のコミュニケーション能力も、部下側の表現力も上り、自己評価も適切になりつつあります。

 人事管理制度の構築はしましたが、効果的な運用に向けて、まだまだ発展段階だと捉えています。これからも、職員の良いところを伸ばせる環境作りに向けて、人事管理制度改革は続きます。

                               

本事例の学びどころ

・「教えること」と「評価すること」を一致させる

 基準づくりでポイントになったのは、「教えること」と「評価すること」を一致させることでした。それが、指導される人・評価される人に納得感を生んでいます。

・実践をしながら進められた制度構築

 ふじみ野福祉会の人事管理制度は、法人職員による手作りの仕組みです。お互いに意見を出し合って資料を作成したり、職務記述書を実際の指導の場面に登場させたり、制度を活用する研修を行うなど、制度をより実践的なものにするための取り組みにも注目です。

 

ご担当者から一言

 もともと生活相談員として働いていましたが、指名を受け施設長になりました。はじめは若さも手伝い、強いリーダーシップを目指したのですが、職場からの反発もかなりありました。そのため、できるだけ現場が納得する形で進めるように切り替えました。職員は、良いサービスを提供したいと思い、日々頑張っているわけです。そういう思いを管理者側がしっかり理解するように努めることが、職員のモチベーションの維持・向上に影響していくと考えています。

 人事管理は、職員がやるべきことと、評価されることを切り離さない仕組みを構築することが重要です。あとは強い意思と信念を持って、制度を進めていくことが施設長の務めだと思います。

 

 

社会福祉法人ふじみ野福祉会 施設長 吉江孝行様

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【出展:静岡県介護事業所キャリアパス制度導入ガイド】

 

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