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介護支援ブログ

介護制度について分かりやすく解説しています。介護に関っている全ての方々に役立つ総合介護情報サイト目指しています。現在は主に介護職員処遇改善加算、キャリアパス要件、介護保険施設等の実地指導について執筆中です。

介護事業所キャリアパス制度導入事例1 社会福祉法人愛生会

キャリアパス要件

「辞めたくなくなる」環境づくりで離職者が2年連続ゼロに

 

 10年ほど前までは退職者が多く、危機感を持った施設長が先頭に立って改革を始めました。その頃に幹部職員と議論したのが、“辞める”理由をなくすより、“辞めたくなくなる”環境を作ろうという組織風土改革でした。それが、同法人の人事管理制度の構築の出発点です。制度導入時に、まずは制度の推進者である管理職のスキルアップをすることも考えましたが、制度を運用することが管理職育成を促進させると結論づけて、実施に踏み切りました。

 

 

kaigo-shienn.hatenablog.com

 

 

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【事業所プロフィール】

  • 名称:社会福祉法人愛生会
  • 設立:平成6年8月
  • 所在地:千葉県八千代市吉橋1059-17
  • 事業:特別養護老人ホーム、通所介護、居宅介護支援 他
  • 従業員数:108名(常勤51名、非常勤57名)

 

 

 職員のモチベーションにつながる制度整備を意識

同法人のキャリアパス制度(図表1)は、まず法人指定の資格を取得していない「一般職」と取得している「総合職」から構成され、役職者になると指導職2級(副主任)、指導職1級(主任)、管理職2級(課長、センター長)、管理職1級(統括部長)、経営管理職と順に昇格する仕組みです。また、介護職員が総合職になった後、次に目指すものとして役職者だけではなく、介護の技術を極めるという「専任職」という等級も設けていますが、そこがゴールになるとは限らないので、そこから役職者になるルートも用意しています。また、相談系職種への変更も一つの選択肢になりますので、介護職員とは別のパスとして示しています。

 

[図表1:介護職員のキャリアパス要綱]

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 昇格条件には、人事考課結果のほか、管理職になる職員には法人指定の研修の受講も義務づけられています。そのような一定の条件をクリアした職員が昇格候補者となり、その中から、例えば主任に登用したいという要望が管理職から出れば、その推薦理由をよく検討して、昇格を決定します。キャリアパスを考える際に組織図は重要ですが、この10年間の改革で組織図の形はあまり変わっていません。それよりも大事にしたのは、各職員が求められる役割等を明確にして、職員のモチベーションにつながる制度整備を意識することです。

 

制度の推進者である管理職の育成

 キャリアパスの仕組みが機能するために重要なのが、制度の推進者である「管理職」の存在です。現在は、統括部長が介護、医務、栄養管理、相談員等の多職種協働の統括役として位置しており、その下に課長、主任、副主任という階層になっています。人事管理システムの運用の推進者である管理者が健全な価値観を持つための教育には時間もかかるので、管理職の育成は人事管理制度を運用しながら行うことにしました。

 図表2は、管理職に求められる能力をまとめたものです。改革以前の管理者であれば、仕事の指示を出すことが業務の中心であったかもしれませんが、今は、これらの能力を身につけることが求められ、部下を良く理解してマネジメントすることが仕事であることを明確にしています。

 

[図表2:役職者の能力(※管理職クラスを抜粋)]

課長・センター長職に必要な能力

  • 部門方針、部門計画に対して定期的な評価と要因の分析を行う力を有し、随時改善と調整ができる力を有する。
  • 法人における高い帰属意識を有し、全体最適の視点を持って他部門との高度な連携や調整を行う力を有する。
  • 当該分野の専門的理論的知識、経験的実務的知識を有し、かつそれらを発信、発現して法人の発展に貢献できる力を有する。
  • 判断力(正否を見分ける、問題を問題として捉えられる)、判断力、実践力、企画力、統率力、人に任せる力を、高度な事象に対応する際に発揮できる。

 

 そのため、管理職向け内部研修(年2回)を施設長主催で実施しています。冬季の研修は、施設長が経営計画の素案を管理職に向けて発表し、部門計画に落とし込むための実践的な討議をします。夏季は主にコミュニケーションスキルの向上を図ります。職場の人間関係は重要ですので、ヒューマンスキルを高めるワークは繰り返し行っています。

 

「学ぶ風土」の醸成と承認の「意識化」で職員育成

 図表3に、同法人における職員育成の基本的な考え方を示しました。キャリアパスに対応した「階層別研修」、人事考課における「面接制度」、「施設長主催研修」を職員ごとに組み合わせて、「円滑なコミュニケーション」「明るい社風」「価値観の共有」を図る仕組みになっています。

 

[図表3:職員育成体系]

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 キャリアパス初期の職員への育成方針は、まずは「テクニカルスキル」の向上に絞り(役職者になるほどに「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」が求められる)、職員が早く仕事を覚えて、自信をつけてもらうことを優先しています。

 外部研修は平均すると、職員一人あたり1年半に1回程度の割合で参加しており、改革前と比べると格段に増えました。これは、専門性スキルの向上を統括部長に権限委譲したことで、一人ひとりの育成をより細かく考えることができた結果と考えています。また、介護福祉士等の資格取得は総合職と一般職を区分する条件になってはいるものの、それだけでなく自分の成長のために自発的に取得しようとする雰囲気が職場にあります。

 また、以前は、マイナス面を指摘することはあっても、職員が褒められることが少なかったのですが、そのような無意識な行動が組織風土を悪くしていました。そこで、面接に限らず日常的に職員を承認することの「意識化」を図っています。良いことは褒め、小さな成功体験を積み重ねることで自信になり、成長につながっています。たとえ職員が失敗しても理由を聞き、そこは認めた上でどうすれば上手くいくかを一緒に考えることで成長を促しています。

 

考課者のスキルを実践で高める

 人事考課は年2回のサイクルで実施していますが、毎回、考課者は自分がつけた評価の妥当性について経営管理職と検討します。そうした地道な作業や考課者研修等のスキルアップを積み重ねて、人事管理制度導入当時と比べると、今の考課者は職員を客観的に“見れる”ようになり、人事管理制度において、面接でのコミュニケーションがさらに大きな意味を持つようになりました。

 福祉職場では数値的な目標が立てにくい面はありますが、目標がないわけではありません。使用している「業務管理シート」(図表4)は、職員一人ひとりが「成果」「プロセス」を振り返り自己評価して、さらにこれからの「取組課題」を考えて記入する様式で、これを情報の一つとして面接や人事考課を実施します。職員が仕事における目標やその進め方を考課者と一緒に考えるのに役立っています。

 

[図表4:業務管理シート(一般職員用)]

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キャリアパスを意識した面接

 面接制度の中で、例えば、介護職員から「実は、相談職の仕事をしてみたいんです」と打ち明けられた時など、すべてが希望通りになるわけではありませんが、上司は、本人のキャリアアップに向けて、今何ができるかを一緒に考えることができます。

 職員としての基礎を身につける初期の段階を終えると、「自分はどうしたい」ということがなければ、伸び悩むことがあります。各職員の将来像について話し合っていくと、少しずつ「現場でスキルを高めたい」「リーダーシップを発揮したい」の大きく2つに分かれていきます。職員の適性や成長の度合等は異なりますので、管理職が職員を見る眼と、それに基づいた育成支援が必要です。

 同法人における、こうした10年間の取り組みの結果、正職員の退職者は、平成25年、26年(11月現在)と2年連続して0人となり、職員の定着について手ごたえを感じられるまでになりました。

 

解説本事例の学びどころ

  • 管理職がキャリアパスの視点を持つ

管理職がキャリアパスの視点を持ってマネジメントをしていることが本事例における成功のポイントです。また、管理職が成長するのを待って人事管理制度を導入したのではないところが、制度導入の手順を考える上でも参考になるのではないでしょうか。

  • 組織図は大きく変えず、役割分担を見直すことで人材育成が加速

キャリアパスを明確にし、それを基準として等級制度、人事考課、給与制度等がトータルに構築されています。組織図は大きく変わっていませんが、その中で役割分担を見直し、権限委譲することで人材育成が加速された点も注目したいポイントです。

 

ご担当者から一言

 

 この地域に愛生会があってよかったと言われるように、この地域での展開にこだわり、期待に応えていきたいと思っています。福祉施設の差とは、結局は人材の差です。職員の採用や定着においても、介護は“やりがいのある仕事”であることをしっかりアピールして、人材育成にどれだけ手間をかけられたかが大切だと思います。

 人事考課制度の導入当初は反対意見もありました。10年目を迎えたこの制度を振り返ってみると、考課者が職員を見る時の視点が良くなったことが一つの成果です。私(施設長)も含め管理者の成長が、職員の育成にもつながっています。

 キャリアパス等の人事管理の仕組みづくりは、これからの将来像を形にしていく作業ですから、次の展開を考えて、必要に応じて作り変えていくことも大切だと思っています。

 

 

社会福祉法人愛生会 施設長 本田眞一様(写真右)/事務長 鈴木克次様

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【出展:静岡県介護事業所キャリアパス制度導入ガイド】

キャリアパス要件について、こちらからダウンロードできるPDFファイルがわかりやすくまとまっているのでご参考になるかと思います。ぜひご活用ください。